理学療法とロジカルシンキング
はじめに
理学療法では患者さんに対して、筋力や関節可動域測定、姿勢や歩行の観察を行い、さらにはレントゲンやCT画像、血液検査データなどを見て、患者さんの目標「GOAL」を達成するために、どのような理学療法アプローチが必要なのかを考えていきます。
要するに、患者さんのあるべき姿(目標)があり、その目標を達成するための問題点を洗い出すために現状把握(検査測定)を行い、その原因を明らかにして、問題解決の方法(理学療法アプローチ)を考えて、実行する事になります。そして、その内容が適切であったか、再評価してまた問題点をとらえ直す事を行います。
これは、一般的に臨床で行われている事ではないでしょうか。
あるべき姿とは?
そこでまず、大切な事が1つあります。それは患者さんと理学療法士(治療者側)が目標とする所(あるべき姿)がきちんと共有されている事です。理学療法士が勝手な憶測で決めるのでは無く、しっかり患者さんと話して目標を定める事が重要です。
患者さんのあるべき姿って何でしょうか?元の体に戻りたい、杖で一人で歩けるようになりたい、自分の事ぐらいはできるようになりたい、旅行に行ける様になりたい…人によって様々です。
現状の把握
あるべき姿(目標)が定まれば、次に行うのは現状の把握です。そのために各種検査を行います。その検査結果を踏まえてあるべき姿と現状のギャップを明らかにしていきます。
ギャップが分かれば、そのギャップを埋めるための対策(理学療法アプローチ)を選んでいきます。ここで大事なのは解決すべき課題に優先順位をつけておくことです。なんでも間でも治療していけばいいというものではありません。特に急性期病院では時間が限られている事が多いため、優先順位の高い項目に対してアプローチをしていきます。
事実と判断を混同しない
次に大事なのは事実と判断を混同しない事です。下に例を示します。
このように客観的なデータで語れるものは事実として認められますが、右側のような内容では個人の判断であり、本当に事実かどうかはわかりません。判断を裏付ける客観的な根拠が必要になります。膝折れするのは膝伸展筋力が弱くなくても起こりますし、顔色が悪いのは単に寝不足なだけかもしれません。正座ができないのは膝の痛みがそもそもの原因かもしれません。
もう一つ理学療法をする上でのあるあるを提示します。
A君:〇〇さんのリハビリは本人は大丈夫そうだったんですが、看護師がやめといてっていうので休みにしました
B君:看護師はなんでやめといてって言ったの?
A君:わからないですね
B君:・・・。
これじゃお話になりませんね。「リハをやめといて」という看護師の判断の根拠を確認しなければいけません。
できればこのくらいの確認は必要です。
A君:〇〇さんリハしていいですか?
看護師:午前中熱が高かったからやめといた方がいいかもね
A君:何度でした?(事実を確認する)
看護師:38.2度でした
A君:午後から何度です?
看護師:まだ測ってないですね。
A君:じゃあ今から測ってみましょう。下がってれば無理しない程度でリハビリしましょうか(事実の確認をする)
看護師:お願いします
1次情報にあたる
ここで大事なポイントは「1次情報にあたる」ことです。
- 1次情報とは
自分で直接調査した情報:患者の身体機能やバイタルサイン、動作観察、分析など
- 2次情報とは
他者が著作した本や論文、他者からの意見や主張のなど
- 3次情報
まとめサイトなど
一番価値が高いのはもちろん1次情報です。
事実だから戦えるんです。
ボトムアップとトップダウン
1つ1つの検査測定を網羅的に行い、障害像を明らかにしていく手法
ある障害像に着目し、その現象を引き起こしていると思われる内容を検査測定し、障害を引き起こしている要因を明らかにする手法
通常、ある程度経験がたまるとトップダウンで考える事が出来るようになってくる。
ボトムアップの例
トップダウンの例
エレベーターテスト
自分で考えたトップダウンあるいはボトムアップした論理がどちらの方向から考えても矛盾が無いことを確認する方法。
途中でおかしな箇所があると辻褄が合わなくなる。
エレベーターテストの例
医療場面ならではの難しさ
ビジネスにおける問題解決とは違い、医療場面では予後予測が難しいケースがある。それは患者それぞれの置かれている状況や能力、病態によってたどり着けるゴールがまちまちであるため。
また途中で急変したり、肺炎をおこしたり、転倒したり、家族の都合で方向性が急に変わったりする事が多い。
先を予測するのは非常に難しい。
すぐに解決できない問題
・時間的要因の影響
手術の影響
受傷の影響
感染の影響
創部の影響 など
要はすぐには治らない(解決しない)課題もあるため、そのことがより医療現場における課題解決を難渋させている。
患者側の問題
リハビリ意欲の低下
元々のADLが低い
高齢である
重複障害がある
認知症がある
療法士側の問題
経験が浅い
知識、技術が未熟
業務が多忙
指導者が未熟
モチベーションが低い
環境面の問題
使用できる機器が少ない
多職種との連携がうまくいかない
部門のシステム上の問題
おわりに
理学療法場面においての問題解決は容易でない事もありますが、事実を積み上げつつ根拠のある結論、課題解決案を導き出せるようにしていきたいですね。
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