理学療法士みっちのつぶやき

理学療法士をしています。いろいろ役立つ情報をアウトプットしていきます。

理学療法におけるリスク管理(総論)

皆さんこんにちは。理学療法士のみっちです。

今回は理学療法において大切なリスク管理についてお話します。

 

1.はじめに

 急性期病院に限らず、回復期や生活期、在宅でもそうですが、根本として我々理学療法士が関わる方は基本的に「何らかの疾病を持っている」事がほとんどです。特に急性期病院では一歩間違えれば命を落とすかもしれない方も理学療法の対象になるわけです。つまり、スタートラインとして我々は「全身状態が悪い人を運動させる」というリスクをすでに背負っているわけです。まずその事を自覚する必要があります。

 

2.リスク管理ができている、とは?

 理学療法を行うにあたり様々な学会、団体から理学療法の開始基準、中止基準が出されています。それらを理解しておくことは当然なのですが、それを知っているだけではリスク管理ができているとは言えないと思います。

 具体的には、

 ①患者の状況・状態が把握できている

 ②疾病の病態を理解できている

 ③運動によって起こりうる反応が予測できている

 ④患者の状態が変化したときに対応する準備ができている

上記の事は押さえておかないと、リスク管理ができているとは言えないと考えます。

実際にアクシデントが起こった時に自分がどう対処するのか、できるのか、そのあたりまで考えておくことが必要です。理学療法中に急変する事だってあり得ますので。

 

3.リスクの高い患者さんの理学療法をどのように考えるか

 特にICUなどで理学療法を行う際に大事な考え方として、理学療法を行う事で得られる「利益」と生じる「リスク」をどう捉えていくかという事があります。高いリスクを冒して得られる利益が少ない「ハイリスク・ローリターン」であれば、場合によっては理学療法をしない、という事も選択肢に入ります。

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あと結構大事なのは、自分の実力や経験もそうですが、周りの環境です。特にICUでは看護師が理学療法をサポートしてくれることがありますが、特に人工呼吸器管理で経口挿管中であったり、CHDFなどのデバイスが入っている場合は、サポートしてくれる看護師との連携や信頼関係も重要になってきます。

 

4.ICU で早期離床や早期からの積極的な運動を原則行うべきでないと思われる場合(禁忌):集中治療における早期リハビリテーション ~根拠に基づくエキスパートコンセンサス~より

1)担当医の許可がない場合

2)過度に興奮して必要な安静や従命行為が得られない場合(RASS ≧ 2)

3)運動に協力の得られない重篤な覚醒障害(RASS ≦−3)

4)不安定な循環動態で,IABP などの補助循環を必要とする場合

5)強心昇圧薬を大量に投与しても,血圧が低すぎる場合

6)体位を変えただけで血圧が大きく変動する場合

7)切迫破裂の危険性がある未治療の動脈瘤がある場合

8)コントロール不良の疼痛がある場合

9)コントロール不良の頭蓋内圧亢進(≧ 20 mmHg)がある場合

10)頭部損傷や頸部損傷の不安定期

11)固定の悪い骨折がある場合

12)活動性出血がある場合

13) カテーテルや点滴ラインの固定が不十分な場合や十分な長さが確保できない場合で,早期離床や早期からの積極的な運動により事故抜去が生じる可能性が高い場合

14)離床に際し,安全性を確保するためのスタッフが揃わないとき

15)本人または家族の同意が得られない場合

以上が集中治療学会が定める早期離床の禁忌になります。どれを見ても離床はできそうにないですよね。

 

5.理学療法の開始基準:集中治療における早期リハビリテーション ~根拠に基づくエキスパートコンセンサス~より

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元々の血圧を加味すること。各数字に関しては経験論的なところもあるのでさらに議論が必要である。

 

6.早期離床・積極的運動を控えるための基準:集中治療における早期リハビリテーション ~根拠に基づくエキスパートコンセンサス~より

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介入の完全中止あるいは、いったん中止して経過を観察、再開するかは患者状態から検討、判断する。

 

7.離床はだめでもできる事はある

 上記の基準は早期離床、つまり端坐位や起立練習などベッドから離れていくような運動をする際に適応になります。患者さんの状態によりけりですが、ベッド上での拘縮予防目的の関節可動域運動や筋力維持目的でも自動運動、自動介助運動、呼吸管理としても体位変換、体位ドレナージは許可される場合がありますので、個別に主治医への確認が必要になります。

 

8.迷ったらどうする?

 理学療法をする上でリスクをとって理学療法を行うか、やめるか迷う事もあると思います。中止基準や禁忌に該当しなくても、何だか嫌な予感がする事もありますよね。その時は思い切って直感を信じてもいいかもしれません。

 皆さんは「ファースト・チェス理論」というものをご存知でしょうか。プロのチェスプレイヤーにチェスの盤面をみせて、5秒で「次の手」をきめてもらう。その後30分かけてじっくり考えてもらい、30分後に改めて「次の手」をきめてもらう。その結果、「最初の手」と「30分考えた手」は、86一致していた、という研究。つまり、最初の判断というのは、かなり正しい。ただし、経験と知識が十分であれば、という前提である。直感は経験で磨いていくものですが、磨き上げるには日々の臨床を振り返り、常にクリニカルリーズニングしていく事が大切です。

 

9.おわりに

 理学療法におけるリスク管理についてお話しました。各論的な細かい事はまだまだありますが、大まかにはこのような所を押さえておけばいいのではないでしょうか。自分自身が患者さんの「リスク」にならないようにしていきましょう!

 

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