理学療法士みっちのつぶやき

理学療法士をしています。いろいろ役立つ情報をアウトプットしていきます。

気管切開患者の理学療法のコツ

こんにちは。理学療法士のみっちです。

今回は気管切開術後の患者さんの理学療法のコツを書きたいと思います。

 

 

1.気管切開とは

 主に人工呼吸器管理が長期化した場合(だいたい7日~14日以上)、または上気道確保のため(声帯や喉頭浮腫による窒息予防)に行われる侵襲的処置です。急性期病院では人工呼吸器管理が長期化した場合に選択されることが多く、比較的遭遇しやすいと考えます。理学療法を行うにあたり注意すべきポイントがいくつかあります。

 

2.気管切開患者のリスク管理

 2.1 気管切開に至った病態の理解

 まずは気切に至った病態とその背景を理解しておきましょう。気道確保目的の気切なのか、人工呼吸器管理が長期化したための気切なのか、抜管したけど喉頭浮腫等が生じたために行った気切なのか、その要因によって注意すべき点が変わってくるからです。

 人工呼吸器管理が長期化して気切に至ったのであれば、やはり酸素化、換気能、呼吸筋機能、全身状態が悪い可能性を考慮する必要があります。抜管後に喉頭浮腫から気切に至った場合は、いずれ人工呼吸器は離脱できそうだけど、嚥下や気切孔を閉鎖するまでは時間がかかりそうだな、とか少し予想ができるわけです。治療の内容にもよりますが、このような気切に至った病態は知っておくことが大切だと思います。

 2.2 酸素化の評価

 一般的な酸素化の指標としてはパルスオキシメーターによるSpO2の評価や血液ガスのPaO2があげられます。血ガスは状況によっては取れにくい場合もあり、理学療法中はSpO2で評価する事がほとんどでしょう。基本的には90%以上を目安にしますが、病態によって異なる事もあるため注意が必要です。医師の指示を確認しておきましょう。

 血ガスが取れるのであればP/F比を確認しておきましょう。これはPaO2/FiO2で表す比であり、酸素濃度が変化しても酸素化能の判断がしやすい大切な指標になりますので、覚えておいて損はないと思います。

 2.3 換気能の評価

 換気能の評価として代表的な項目は、呼吸数、1回換気量、分時換気量、血ガスのPaCO2があります。呼吸数はあまり数えてないかもしれませんが、極めて重要な指標です。呼吸数が安静時で25回を超えるような頻呼吸を呈している場合は注意が必要です。1回換気量、分時換気量が多いほどPaCO2は低下する事が多いですが、1回換気量が少ないと、有効換気量が少なくなり、思ったほどPaCO2が低下しない場合もあります。PaCO2は換気の指標としてよく見られますが、呼吸不全の方は元々高い方もいるため、このあたりはPHをみて判断する必要があります。

 2.4 喀痰排泄能力の評価

 基本的には気切を要するような患者さんは喀痰排泄能力は低下していると思っていいと思います。特に咳嗽の力や咳反射など、自力で痰を出せるかどうかが大事になってきます。また、口腔内が乾燥していたり、痰その物が粘度が高いとしっかり咳嗽できたとしても痰が出ない可能性があるため、そういった意味でも加湿は重要になります。

 2.5 気切カニューレ以外の附属物の確認

 気切に至る患者さんは急性期病院であればICUやHCUにいる事が多いと思います。その場合、他にもAライン、CVルート、末梢ルート、人工呼吸器、CHDFなどいろんなものが引っ付いている事が多いです。理学療法で離床をしていく場合はこれらのルートの管理も重要になりますので、「どこ」に「なに」がついているのかをよく確認しましょう。ルートが左右にある場合はルートを整理しないと端坐位や立位に慣れない場合もあります。もちろん、1人で全部するのま無理なので、看護師や医師と協働してやりましょう。

 2.6 加湿の確認

 見落とされがちかもしれませんが、加湿は大切です。通常であれば人工鼻を装着して加湿はOKってなっている場合が多いかと思いますが、中には痰が粘調だったり固かったりして、中々痰が吸引できない、場合によってはカニューレの内筒にこびりついて最悪窒息、なんてリスクも十分あり得ます。痰が貯留する、閉塞する事は理学療法を行う上でも患者さんの呼吸苦や酸素化低下を招く事があるため適切に対処しておきたい所です。

 痰がうまく出ない、吸引できない場合はインスピロンによる加湿や去痰剤の注入(内服)なども主治医や看護師と相談した方が良いでしょう。

3.理学療法前の準備

 3.1 口腔内、カフ上、気管内吸引の施行

 まず、理学療法(今回は主に端坐位、車椅子移乗などを想定)をする前に、口腔内、カフ上、気管内吸引をしてもらいましょう。座ったり立ったりするとそれだけでも換気量が増えて痰が出やすくなるため、あらかじめしっかり吸引してもらっておくことで、患者さんも苦しくなく、咳も少なく離床ができるようになります。

 3.2 カフ圧の確認

 ここは見落とされがちかもしれません。離床させる前にはカフ圧は確認してもらいましょう。カフ圧が低下していると、カフ上や口腔内にたまった痰や唾液が気管内に垂れ込んで、その刺激で咳嗽が頻発します。寝ているときはカフと気管にスキマが無くても、起こすときに頸部を動かしたり、姿勢が変わるとその際にスキマができてしまう可能性があります。起こした後から咳が頻発する場合は是非、カフ圧を起こす前に確認してもらって下さい。概ね25-30程度の圧で調整したらよいでしょう。

 3.3 ルート類の整理

 起こすときは点滴や他のルートやデバイスが引っ張られたり、干渉しないように整理しましょう。1人でさばくのが無理な場合は看護師に協力してもらいましょう。

 3.4 酸素流量の確認

 理学療法前に現在投与されている酸素流量を確認しておきましょう。また、医師の指示を確認しておき、目標のSpO2はいくつか、何リットルまで酸素を上げ下げして良いかを知っておきましょう。一般的に起こすと酸素化が良くなることが多い印象ですが、低下した場合にどのように対処したらいいかをしっかりわかっておきましょう。

 3.5 看護師との連携

 端坐位、立位にすると先ほど述べたように痰が出やすくなります。場合によっては吸引が必要なる事もあるでしょう。その際に、患者を支えながら吸引する事は困難です。そのような状況が予想される場合はあらかじめ看護師に相談しておき、理学療法時に同席してもらう事も必要かもしれません。

 3.6 フィジカルアセスメント

 忘れていけないのは患者さんのフィジカルアセスメントをする事です。問診(気切だとしゃべれないかもしれませんが)、視診、触診、聴診、打診の5診を駆使して、患者さんの状態把握に努めましょう。特に表情や呼吸パターン、血圧、皮膚の温かさや色調は見逃さずに評価しましょう。

4.理学療法

 4.1 バイタルサインのチェック

 呼吸数、血圧、心拍数、SpO2は理学療法実施中はモニターしておくことが望ましいと思います。気切をしないといけないような全身状態の人を動かしていくという事を肝に命じて、変化を見逃さないようにしましょう。

 4.2 フィジカルアセスメント

 モニタリングできる項目以外にも、表情や皮膚の状態、呼吸パターン、呼吸補助筋の活動など理学療法施行前と変化が無いか、またはいい反応が出ているかを確認しましょう。

 4.3 看護師との連携

 必要があれば吸引を依頼したり、バイタル測定をしてもらったり、状況に応じて連携しましょう。1人でなんでもしようとすると患者さんを危険にさらす場合があるため、要注意です。

 4.4 理学療法実施

 実施予定だった理学療法を行います。端坐位の練習や立ち上がり動作の練習、車椅子へ移乗する練習など、予定された理学療法を行います。患者さんの状況や理学療法中の反応、バイタルサインなどを評価して、どの程度の事をどのくらい行うかを判断しましょう。個人的には理学療法の「開始基準」「中止基準」をしっかり頭に入れておくことが重要だと思っています。

5.理学療法実施後

 5.1 バイタルサインのチェック

 実施後に変化が無いかを確認しておきましょう。やりっぱなしはいけません。理学療法後に状態が変化する場合もありますので。

 5.2 各種吸引施行(必要があれば)

 動いた後は痰が出やすくなっていたり、たまっている事がありますので、必要があれば看護師に吸引を依頼しましょう(当院は理学療法士は吸引の許可がでてないので)

 5.3 看護師への連絡

 理学療法でどこまで実施したか、介助量がどうだったか、バイタルサインがどうだったかなど、報告をしておきましょう。日頃の細かいコミュニケーションが看護師との信頼関係を作るコツだと思います。

6.おわりに

 今回は気管切開患者の理学療法のコツを簡単にまとめてみました。少しでも患者さんのために参考になれば嬉しいです。

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